相続争いを避けるための対策
今回のコラムでは、家族の間で揉めずに相続を円満に進めるための対策についてお話しします。
相続における最大のリスクは「揉めて相続手続きが終わらなくなること」です。
まるごと相続で相談を受けるケースでもかれこれ不動産に関して何十年もやりとりしている、なんてことも少なくありません。
そしてこれらは、資産があるから起こっているわけではないのです。
相続が長引くと、感情や意地の問題になり、長期間かなり消耗する日々を過ごすことになりかねません。
このような揉め事を予防するためにも、これから書く対策は最優先で、早めに対策を講じておくことが重要です。
対策①:遺言書
相続において揉め事を避けるために、最も効果的な方法が「遺言書を残しておくこと」です。
遺言書があれば、相続人全員の同意が無い限り、遺言書通りに分割を実行することが出来ます。
そのためいくら納得できない相続人がいたとしても、遺言書の内容に従うしかありません。
遺言書の種類は3種類あります。
・自筆証書遺言とは
遺言の内容を自筆して作成し、自分で保管を行う方法です。
自筆証書遺言は相続発生後に、未開封の状態で家庭裁判所に持ち込み、他の相続人の立会の下で開封する手続きを行います。
自筆証書遺言は手軽にいつでも作成できる点がメリットである反面、多数のリスクが存在します。
自筆証書遺言は形式が厳格に定められていたり、自分で保管をしなければならないからこそ、
形式不備による無効、紛失、発見されない、隠蔽・破棄・変造される等のリスクがあり、
遺言書を作成したのに正しく実行されない場合があります。
「遺言書保管制度」を利用すれば、上記のデメリットのいくつかを回避することが可能です。
法務局が遺言書の原本を保管してくれる制度で、遺言書の紛失や隠匿などを防止し、遺言書を発見してもらいやすくなりました。
ただし、内容のチェックが受けられるわけではないため、形式不備によって無効になるリスクは避けられません。
なお、同制度を利用するには手数料3900円がかかります。
・公正証書遺言とは
公証役場で、2人の証人立会いのもと、公証人という法律の専門家が読み合わせを行い、内容を確認して作成します。
最大のメリットは、公証人が関与して作成する遺言書なので、確実性が高いことです。
その反面、自筆証書遺言と比べると、費用と手間がかかることがデメリットです。
ただ、手間といっても、証人2人と公証役場への依頼を行えば実行できますし、
行政書士ならびに司法書士へ依頼を行えば、彼ら自身が証人になってくれ、遺言書の内容作成から公証役場の手配まで、全て対応してくれるため、
多少のコストがかかっても、面倒を避けたい方は手続きを全て依頼することも可能です。
・秘密証書遺言とは
作成方法は公正証書遺言と同様ですが、その存在だけを証明してもらうという方法で、内容については公証人や証人にも明かすことがなく、保管も自分で行うことになります。
こちらは内容の確認も行わず、保管も自分で行うため、自筆証書遺言と同様のリスクが発生します。
その割に公正証書と同様の手間も発生するため、実務上はほとんど利用しません。
公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言ですが、おすすめは公正証書遺言です。
なぜなら作成した時点で、正本を公証役場が預かってくれるため、その内容の有効性が担保されつつ、保管に伴うリスクがなくなるからです。
反面、自筆証書遺言と秘密証書遺言には、形式不備や破損・紛失により遺言書自体が無効になるリスクがあります。
公正証書遺言は作成に費用がかかりますが、それによって避けられるリスクはかなり大きいです。
また、自筆証書遺言は上記にて記載の通り、他の相続人の立会の下で確認を行いますので、相続人同士が仲が悪かったり、亡くなった方が再婚していてそれぞれに子供がいる場合などは、残された方の精神的負担も考慮する必要があります。
対策②:信託
「自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう」制度です。
信託では、3つの役割を持った登場人物が登場します。
・委託者→お願いするひと父
・受託者→任された人(法人でもいい)
・受益者→利益を得る人
委託者の名義を、任された受託者の名義に変えてしまうため、指定された範囲内で自由に使えるようになります。
基本的に思い通りにできるのが信託なので、
・自分が死んだ後に、資産を相続した方が死んだ後の用途まで指定する
・残された資産の使い道まで指定する(「〇〇銀行のお金は教育資金で使って」など!)
などの指定も可能となります。
例えば、委託者である祖父が、
「家はわしがぼけたら売ってくれ。そしてそのお金お金は孫に使ってくれ。主に学費や習い事ね。預金はまず〇〇に使って、残ったお金は好きにして。持ってる株は売らないで。」
という内容で委託していた場合、受託者はそれに従わなくてはいけません。
また信託であれば、委託者が認知症になっても、受託者が株を買ったり、不動産を売買したりなど積極的な資産活用ができます。
通常、所有者が認知症になった場合、「判断能力」の点から不動産の売買や賃貸などの契約行為が行えなくなります。
そのため、親が介護施設に入所し、使わなくなった自宅を売ることも貸すこともできず、親族が空き家のメンテナンスや、固定資産税の負担などを行わなければならなくなる場合もあります。
自分が株主の法人があったり、多数の不動産を所有しているような、運営が止まってしまうと、損失が大きくなってしまう状況の方は、自由度が高い信託が向いています。注意点は、難易度と費用の高さです。
様々な場面を想定出来るからこそ、記載内容が辻褄の合うものになっているか、委託者の希望通りの内容になっているかをよく吟味する必要があります。
また税金面でも、いつ何の税金がかかるのかが複雑になり、ふたを開けると無駄な税金を余計に支払わなければならなくなった、なんてことも起こりえます。
そういうことを防ぐために専門家が時間をかけてじっくり検証する必要があるので、信託は時間がかかる上に高額になりがちです。
そのため遺言書で事足りる場合は家族信託を行う必要はないため、大多数の家庭ではおそらく不要な場合が多いかと思います。
対策③:生命保険
生命保険は遺産分割においてはとても便利な手段です。
まず、保険金は相続人固有の財産とみなされるため、分割協議の対象にはなりません。
つまり、生命保険は遺言書と同様「残したい人に確実にお金を残せる」選択肢です。
そのため、特に遺言書との組み合わせの相性がよく、遺言書作成によって発生する「遺留分」の対策にもなります。
予め遺留分の金額を算出しておき、その金額分を生命保険としてお金を残せば、遺留分の支払いに困るという状況を回避することができます。
これは例えば、資産のほとんどが不動産で、その不動産を特定の相続人(Aさん)に相続させるよう遺言書を書いていた場合、
Aさんは他の相続人から「遺留分としてお金を払え!」という請求されると、自分の資産からお金を捻出しなくてはならなくなります。
自分の資産からお金を捻出できないと、不動産を売却して遺留分のお金を捻出する必要が出てしまうのですが、これが自宅として住む予定だった不動産だとどうでしょう?
生活の基盤である住まいがなくなってしまうのは、精神的にも大きな負担となってしまいますし、
せっかく遺言書を残したのに、故人の思っていた通りに相続が実行されなくなってしまうのは、大きなリスクです。
このようなケースでは、遺留分を意識した現金の準備はセットで考えていただく必要があり、受取人が必ず受け取れる生命保険はうってうけです。
また、お金を受け取るまでのスピードも早いため、生命保険の資金を葬儀費用などに充てることもできます。
相続発生後に喪主として色々動いてくれそうな相続人には、金銭的な負担を発生させず、喪主のことだけを考えれば良い環境をつくるためにも、生命保険の利用を検討しましょう。
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